稜線に転がる唐突な岩。それが何者かの仕業に見え、私はシーシュポスのことを思った。山の頂に巨岩を押し上げる業を神々から背負わされた人間の名だ。ようやく頂に上げられた岩は瞬く間、奈落の底に転がり落ちていく。彼は山を下り、再び岩を押し上げなければならない。永遠に続く無益な労働と不条理を象徴した話。
徒労。それは私が最も恐れをなす言葉だ。こうして独り山頂で写真を撮る姿こそ、徒労そのもの。まるで立ち尽くしているようにも映るのではないか。途方もない懲罰の中で、シーシュポスは何を感じていたのか。太古の昔から明と暗が繰り返されてきた地上を前にして、私に残された自由がこの不条理を美しいと感じられる両眼だけなのだとすれば、シーシュポスもまたこれを知り尽くし受け止めていたのだと思えてならない。
柏倉陽介(Yosuke
Kashiwakura)/ネイチャーフォトグラファー
柏倉陽介、1978年山形生まれ(神奈川在住)。2004年頃から独学で写真を学び始め、2007年に世界2大自然写真賞の一つに入賞し、米国立スミソニアン自然史博物館に展示される。国際写真賞「International Photography Awards」にて、SPECIAL OTHER_S部門2位、NATURE
UNDERWATER部門3位を受賞。自然風景をはじめ、自然と対峙する人々や環境問題などを撮影。雑誌・書籍・広告で幅広く活躍している。
■Award International Photography Awards : Special Other_S Professional Category 2nd place, Nature Underwater Professional Category 3rd place, Professional Category : 50 Honorable Mention/Nature's Best Photography Windland Smith Rice International Awards : People in Nature Category Highly Honored
■Exhibition Nature's Best Photography Windland Smith Rice International
exhibition(National Museum of Natural History)
■Publication Annual International Photography Awards Book/The Nature's
Best Photography Winners Collector's Edition/National Geographic Week's
most awesome photo/Ultra Trail du Mont Blanc 10th Edition book and poster/other
ウェブサイト/Yosuke Kashiwakura Photography